USM

Chino, Nagano/Aug. 2022
 元々は、少し建物も古くなってきたので色々と手直ししたいので一度見て欲しいという依頼を受け、神戸空港から松本空港へ飛び、そこから車で1時間。最初に訪れたのは、2021年9月。少し早い秋の訪れを感じさせるカラマツの落ち葉が舞いくる林道を抜けた突き当たりにポツンと建つそれは、どこか映画の世界のようだと思ったのをよく覚えている。少しきしみ音のするステップを数段上がり、久しぶりの人の訪れを告げる扉を開けるとその家の独特の空気が漂っていた。
 すぐに日も暮れ、少し寒くなってきたので薪ストーブに火を灯し暖をとり早々と床についた翌日、早速クライアントの要望を一つ一つ現場を見ながら説明を聞いていたのだが、ふと床の沈み具合や階段のささらと梁の取り合いに違和感を感じた。
 そして、改めて構造体の接合部や床下に潜って様子を確かめると、いくつかの不具合が判明。クライアントの要望にもこれらの不具合によって発生したことが分かった。ということは、まずこの根本部分をきちんと直さなければならない。それには、それを直せる施工者を見つけてこなければならない。これが不思議な縁ですぐ見つかったのは、このプロジェクトで一番ラッキーだったことだと思う。全ては手探りで進めていかなければならなかったが、それに根気強くついてきてくれた施工者には、感謝しかない。
 雪解けと共に何も施されていない床下にコンクリートを打設し、ニュースで猛暑を告げる夏に気温25度程度の快適な現場で根気よく改修を施した。
 これまで様々な国や地域で夏を過ごしてきたが、ここで過ごしたこの夏は間違いなく五本の指に入る。本当に思い出深い現場になった。

Photography:S.Yamashita

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