TNH

Ashiya, Hyogo/Sep. 2004
 建物を建てる土地を決定するのには、様々な理由がある。土地の広さ、価格、法規制から最寄りの駅までの距離、学区など。クライアントの事業は、全国へ展開している。その事業は、ここから発信される「ココ」が重要だった。全国的にも知名度のある「ココ」が。
 クライアントは、家で過ごす時間を非常に大切にしている。これまで海外で過ごしてきた時間や、仕事で訪れるバリのヴィラでの時間のように。しかしそれは決してバリ風の建物ではない。クライアントが求めているのは、上質な時間の流れ方である。それを知るためにバリで10日間時間を共有することにした。
 知り合って2年以上経ってから見つかった30坪ほどの敷地は、法規制が緩く可能性を秘めた土地。住居と仕事場と倉庫を兼ね備えた建物を計画する。  細い柱を細かい間隔で入れ、建物内に積極的に鉄の素材を取り入れている。長辺方向の片側を丸柱とし、壁から離して独立させ柱を並ばせた。法的なこと、構造的なこと、インテリアに関わることがバランスよく組合わさった計画である。
 1階部分は今後の事を考え、使用に制限がかからないボリュームと設備を確保。2階の仕事場のスペースは、諸室を2つに分け各層との独立を重視している。3、4階の住居部分は、生活するのに必要最低限の部屋と少し広めの玄関を確保している。それら各層を半径の異なる螺旋階段で結んでいる。
 床暖房が施された柔らかいオイル仕上げのフローリングは、素足で歩くのが心地よい。1室に配置されたアイランド型のキッチンと、それにあわせてバリで製作したチークのテーブル。所々に配置されているどこかの国の雑貨、天窓から降り注ぐ光と風、仄かに揺れるネムノキ、それらに囲まれていると、「ココ」が地上10mに位置する所だということを忘れる。手に触れるモノ、足に触れるモノ、それらが上質な時間を形成する。

 それは、記憶に残る10日間の感覚に似ている。
Photography:S.Yamashita

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