TKH

Kobe, Hyogo/Jan. 2007
 初めて届いたメールは、随分と丁寧な文章に仕上がっていた。そのメールには、僕の高校の後輩だということ、結婚し家を建てるに当たって敷地の選定からお願いしたいことが書かれていた。しかし、その選定基準は非常に緩く絞り込まれていなかった。市有地の売却情報で良さそうなモノは現地へ足を運び、色々と考えを巡らせる。いくら名案が浮かんでも、抽選にはずれてしまえばどうすることも出来ない。一つとして同じモノがないのが土地。新たな土地が出るたびに、色々と敷地条件が変わってくる。それを何度か繰り返している間に、クライアントが本当に大切にしていることが浮き彫りになってきた。土地の資料だけでファイルが1冊終わろうとしたとき、建て売り住宅の為に整えた敷地を交渉して買えることになった。6角形の敷地は、5辺が道路境界線となる。今まで何度も演習を繰り返してきただけにその土地に決めるのにさほど時間は有しなかった。ただ1つ、これまでの演習時には無かった新しい条件が生まれた。7ヶ月後に新しい家族が1人増えると。
 クライアントは、家づくりにおいて自分で出来ることは自分で行いたいと。基本的に建物は人力で作るモノ。出来ないことはない。やろうと思えば何でも出来る。自然界では、自分の住処を自分で作らない動物は、そんなに多くない。自分で作ることは、ある意味至極当然なことだと思う。
 本州と北海道との間を1週間かけて往復する船に航海士として勤務するクライアントは、1週間単位でまとまった休みを取ることが出来る。その休みにクライアント自ら工事をする条件で、建物全体の見積もりを組み立てた。
 建物は、サイズの小さな鉄骨で建物全体のフレームを構成し、そこに木製の梁をかける。いわば鉄と木とのハイブリッド構造。この方法を採用すれば、2階の床梁を1階で表しても無骨な鉄骨が見えることはなく、床を薄く作ることが可能となる。5方向から発生する道路斜線で建物の形は、自然と決まってくる。室の構成は、クライアントと色々相談した結果、特定の目的の部屋は作らず、性質の違う部屋をいくつか作ることで決まっていた。下足の部屋、上足の部屋という程度。イラストレーターの奥さんが個展を開いたり、セルフビルドを試みるには、下足の方が良い。上足の部屋は、寝たり、食事をしたりする。とにかく未知数の部分が多い家。外壁は、道路に面している5面は、セメント板を重ね合わせ、南側の庭に面した部分は木を重ね合わせている。外から見ると建物の形と質感がアルマジロのようだ。
 引き渡し時には、まだ、玄関脇の庭だけでなく玄関につながる階段も無い状態。これまでで一番未完成な部分が多い家。特定の目的の部屋を作らず、家族の成長にあわせて家の使い方を変化させ続ける事を望んだクライアントの意志の表れなのかもしれない。いや、そもそも家に、完成というモノは存在しないのかもしれない。
Photography:S.Yamashita

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