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Kobe, Hyogo/Dec. 2020
 以前TKBのテナントを探している時に知り合った不動産屋さんから、20代後半の夫婦が譲り受けた建物のリフォームの相談を受けて欲しいと連絡があり早速出かけてみることに。  JRの兵庫駅から徒歩7分。小さなスーパー、居酒屋に美容室、昭和の匂いがプンプンする純喫茶が建ち並ぶ一角に3オーナーの五階建の共同ビルがある。その1オーナーは、彼らの祖父の代に鰻屋さんを営んでいた事は今もまだ残されている袖看板ですぐにわかった。  現地で初めてお会いした二人から、この建物への思い出や何を大切にしてどういう暮らしをしたいのかを丁寧に話していたことが印象的だった。  1978年に完成したこの建物は、三オーナーが縦方向にそれぞれ五層分所有している。確認申請書も竣工図も存在しないこの建物をまずは実測調査するところから始める。それも既存の間取りの中での作業なので見えない部分がかなりある。もちろん残り2オーナーの部分もそれに含まれている。測量した結果、どうやら単純な矩形ではなく全ての辺が並行ではないようだ。その微妙なずれは、道路境界線に沿って建てた事に由来することは、屋上から下を見下ろした時によくわかった。  竣工時は、一階が鰻屋さん、二階が台所と浴室、残りの階が全て二つずつの個室になっていた。一階を除いて全てスケルトンにするところから全てが始まった。  およそ構造躯体だろうと考えていたところがブロック壁だとわかり、床の懐がこれくらいだろうと考えていたところが違っていたり、露出になっている配管が実は使われていないものだったりと良い面と困った面での予想外がある。これを解決しながら進めていくのがリフォームの醍醐味だ。  断熱材が入っていない壁には全て断熱材を入れプラスタボードに塗装。隣家と接している壁は、コンクリートに直接塗装。床は、全て幅30センチ厚28ミリの米杉の無垢材にオイル塗装。オールステンレスで作ったオリジナルのキッチンに長さ1.8mもある銅板で作ったオリジナルの照明。その下には、長さ2.2m厚50ミリもある栃の木の一枚板にスチールで作ったオリジナルの脚。日常使うものすべてを彼らに合わせてデザインしている。そして、使われている素材は、全てプリミティブなものばかりでこの先50年以上は使い続けていけるものだ。  住み始めてまだ間もないが、幼い頃の思い出の詰まった家の面影が何処かにあることをいずれ自然と気がつくのだろうと思う。そしてそれは、来年生まれてくる新たな家族にも自然と引き継がれていくことと思う。
Photography:S.Yamashita

 

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