ONR

今から10年以上前、その2人がまだ結婚していなかった頃、米の管理をしているという男性と陶芸家だという女性がやって来た。
 敷地は、特に決まっていなかったような気もするし、幾つか実際見に行ったような気もする。あまりよく覚えていない。どうしてその話が立ち消えになったのかもよく覚えていない。
 それから暫くして2人が結婚して京都の町家に引っ越した事と、そこでカフェを始めた事と、そこで続けて陶芸をしている事が綴られた手紙が届いた。それからまた暫くして今度は、集合住宅に引っ越して、陶芸も休憩して、子供が1人生まれた事を写真入り年賀状で知った。それからまたまた暫くして、その集合住宅からほど近い疎水沿いに昭和一桁に建てられた木造住宅を購入したので改装したいとその建物の図面と写真と共にメールが届いた。
 建物は、部屋によって使っている材料が異なることから、何度も何度も数え切れないほど増改築を繰り返していると思われる木造2階建て。其処を陶芸の工房と親子3人が快適に10年間だけ暮らす建物に改装する。夫妻からの唯一の要望は、桜の咲く頃には此処で住み始めたいということだけ。
 先ずは実測を行い、予想される隠れた柱をプロットし、耐震補強を兼ねた新たな壁と柱の配置を計画する。見積を取り、予算内に納め、施工契約を終え、いざ解体してみると想像以上に複雑な増改築の跡が見えてくる。梁が途中で無くなっていたり、柱があると思った所になかったり・・・・。そもそも、平屋だったことなども。
 再度プランをやり直し、結果的に少し不思議なおもしろいプランに仕上がった。もっとも、このプランを住みこなせる家族だからこそ実現した部分もある。
 2軒分のプランをしたことになるが、2軒分の打ち合わせの記憶よりも打ち合わせの後の食事会の事の方を酔っていながらも鮮明に覚えている。
 海で集めてきた流木が扉の引き手になったり、大きな滑車が扉のコマになったり、解体した丸太が表札になったり。少し酔いながらの方がそんなアイディアが次から次へと出てくるのかもしれない。


Photography
S.Yamashita