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あの中古車販売のCMで有名な地名、名前は知っていたが一度も訪れたことのないエリアだった。その辺りに土地を買おうとしているので相談したいとメールが届いた。二転三転して結局、小さな印刷工場付きの中古住宅を購入してそのまま住むということでその時は話が終わってしまった。
 あれから8年。以前の経緯を簡単に記し、今暮らしている建物を何とかしたいという内容のメールが再び届いた。リフォームも検討したが、道路に建物が2m近くはみ出している事が分かり、さらに軟弱地盤なのか建物も少し傾いている。流石にこの建物に手を加えるのは、どうかと思うと話した結果、この家を解体し、新しく家を建て直す事になった。敷地は、約13坪。此処に8年越しの家族5人が暮らす家を作る。
 敷地形状は、非常に細長い変形五角形。一番狭い所が2Mも無く、一番広い所でも3.5m。しかし長さは、11mほどある。そこに木造2階建の五角形の家を計画。  1階に、トイレ、浴室、洗面所と主寝室。2階に天井の高さが5mもあるリビング、ダイニング、キッチンと2つの子供部屋。厚さ8cmの頑丈なニレの木のダイニングテーブルは、5人分の食事はもちろん宿題や作業を行うにはちょうど良い。その上部には、家と同じ形をした銅板で製作した照明器具がそっとかかる。ダイニングチェアーに座ると屋根の下にもう一つ屋根が浮かんでいるような感じだ。3センチ巾の薄い梁が30センチピッチでかけられ、その間にオリジナルの照明器具が30個ランダムに配されている。
 オールステンレスで製作したキッチンに立つと天窓からの風が気持ち良い。リビングを挟むように2つの子供部屋。それぞれの個室を確保しようとするとどうしても廊下で結ばなければならなくなる。廊下に人は住めない。この家に求められているのは、住みこなす為の工夫だ。中学1年を筆頭に女、男、女の順に3人の子供達が2つの子供部屋を決められた量の収納ボックスを持って、この家を巣立つまで部屋を移動する。言わば家の中の遊牧民達である。  洗い出しの外壁は、風雨にさらされて少しずつ変化していく。家族の成長と共に家も変化し育てていくものだ。
 「これまでは、どんなに疲れていても早く家に帰りたいとは思わなかったのに、引っ越して1週間も経たないうちに早く家に帰りたいと思っていることに気が付いて笑ってしまった」とメールが届いた。「たぶんこれからもまだまだ色々と気が付くことがあるのだと思う。それが楽しみだ」と。


Photography
S.Yamashita