OKR

Miyakojima, Osaka/May 2002
 2001年の最後の週に1通のメールが届いた。丁寧な文面には、「!」と「なるほど」の文字が繰り返し使われ、以前我々がリフォームした住宅が掲載された雑誌への感想がまとめられ、最後に携帯電話の番号が書かれていた。この1通のメールからまさかここまでのめり込むことになるとは、思ってもいなかった。
 1983年に建てられた大阪の中心部まで自転車で行ける距離にある階段室型の集合住宅は、切妻の屋根がかかっており、最上階の計画住戸は天井が屋根勾配に沿って高くなっていた。30代前半のクライアントは、ここで2人の新しい生活を始めようとしている。ごく一般的な集合住宅とは異なるこの住戸には可能性が多く含まれていた。が、予算がかなり限られていた。
 今回の改装計画では、高い天井を活かした空間の立体的な利用、クライアントの価値観に合った材料選定、セルフビルドの3つがポイントである。出来る事はクライアント自らが行うという条件で、浴室、洗面所を除いた約76平米を改装する事にした。集合住宅の場合、区分所有法等により、法的に出来る事と出来ない事があり、それを整理し改装計画を立てた。さらに使用する材料の選定、購入方法、納期等までを調べ、工務店には出来るだけ材料を支給する方法を選んだ。
 まず、クライアントが自ら行える作業として始めたのは、コンクリート部分のクロスを剥がし、そしてその部分を綺麗に水葺きする事。過去に自宅の改装で経験のある我々がこの先ずっと指導することになる。その作業が済むといよいよ解体撤去工事に入る。
 ここから、床のフローリング、壁のブラスターボード張り、電気の配線等が工務店の作業である。床のフローリングは、足場板に人工乾燥をかけ、実加工した物をwebで探し、床張りの作業が始まるまでに納品できるように発注手配を整えた。
 建具には、アメリカの納屋で使用されていた古材を利用し、収納の扉には、布問屋で素敵な布を探し利用する事にした。床、壁を張り終え、再びセルフビルドの開始である。丸1日かけてキッチンの壁面にタイルを貼り終え、壁の塗装、建具の塗装、床のワックスがけを1ヶ月の時間をかけてやり遂げた。
 新しい空間を手に入れた喜びはもちろんだが、それ以上にこれだけの時間を自らの家に費やし、自らが作業したという経験が1番価値のあることだったのかもしれない。
 たっぷり時間をかけた分、新しい家に息を呑むような驚きはないと思う。昔からの知り合いと接するように、新しい家での生活が始まる。ただ、今まで気が付かなかったことに、ひょっとしたら気が付くかもしれない。ひょっとしたら。
Photography:S.Yamashita

 

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