NKH

Kobe, Hyogo/Jul. 2001
 ある日届いたNさんからのメールには、ホームページを見て連絡をしているという事、今住んでいる住宅はオール電化で家族4人の光熱費が月幾らかという事、新しく建てる家も是非オール電化にしたいという事、それから設計を依頼したいという事、この4点が番号を振って書かれていた。本当にそれだけしか書かれていない短いメールだった。そして、話を進めていくと実はまだ土地が決まっていない事、いつまでに建てたいかという事、オール電化にするという事以外具体的には何も決まっていなかった。  ファッション関係の仕事をされているNさんとは、歳が近いこともあり建物以外の事でも色々と話が合い、モノへのこだわりや何を求めているかを感じ取る事ができた。打ち合わせと称して家に上がりこんで夜中までシングルモルトを飲んでいたのはよく覚えているが、お互い何をそんなに話していたのかはあまりよく覚えていない。
 しばらくして決まった台形の敷地は、神戸の東灘区 東西に延びる神戸の主要な幹線道路に面した25坪。広い歩道にはプラタナス並木があり、敷地の外から取り込みたいモノと取り込みたくないモノが並列していた。
 家族が求めているのは、都市で快適に過ごす方法である。 
 5m×10m高さ10mのシンプルな箱を前面道路に対し5度振る。これによって敷地と建物との間に生まれた隙間を、目的の違う2つのアプローチとした。建物は2台の車と2人の子供と夫婦が暮らすための部屋、それ以外に何か新しい展開が出来る1部屋を用意した。建物内は、中心に約7mの吹き抜けを設け、両側に各部屋を配置した。各部屋は、部屋の性格に合わせ天井高さを変えているため、少しずつ異なったレベルに床がある。
 この異なった床レベルを吹き抜けに設けた階段が順番に結ぶ。それぞれの部屋から吹き抜けを通してレベルの違う互いの部屋を見ると、自分のいる部屋がどの階にあるのかが認知しづらい。この家では部屋を面積や階数という単位で考えることから解放し、その気積などの垂直方向の感覚に訴える事を試みている。
 吹き抜けの上部は開放可能な天窓で構成されている。天窓を開放すると、煙突効果により吹き抜けに面した部屋全ての風が抜けていくのが感じられる。夏場の日射と冬場のコールドドラフトを制御するために、ヨットのセールを利用した天幕が設けられている。
   都会に住む家族が求めたものは、雑踏や喧騒だけを取り除いた生活。プラタナスの葉が影絵のように静かに半透明のガラスブロックに写し出されるようなクールな快適さなのかもしれない。
Photography:S.Yamashita

 

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