AFA

Kobe, Hyogo/Jul. 1999
 これは、我々の設計に対する考えを方向づけるきっかけになった改装計画だ。
 住み慣れた神戸の六甲。1972年に竣工した古い集合住宅の一住戸を1999年に事務所兼住まいとして改装することに。 それも自分たちの力で解体したり石を切ったり、タイルを貼ったり、ペンキを塗ったり、今で言うセルフビルドを試みることに。
 今と違って当時は、気の利いたホームセンターもインターネットも無い。
 建物は、お世辞にも綺麗とは言えない3LDK約75㎡。
しかしその住戸は、小さな川が静かに流れる林に面し、春には新緑の中ウグイスが鳴き、夏にはセミの声で目が覚め、秋には落ち葉を踏む音が聞こえ、冬には木々をすり抜けた夕日が部屋を赤く染める、そんな季節の移ろいが楽しめる住戸。
 改装するに当たって重視したことは二つ
「余分なものを取り除くこと」
「変化に対応できること」
「余分なものを取り除くこと」とは、単にいらないものを処分するのではなく、 建築部材の全て(例えば巾木は本当に必要なものなのか)を既成概念から一旦見直し、改めて自分たちの価値観に問い直すということ。 これは、キッチンというものに対しても同じだ。
 キッチンを新しくする上で一番重視したことは、「とにかく楽しく料理できること」求めていることは、シンプルで掃除がしやすく、機能的な収納、そして強い火力だと考えた。 数あるキッチンメーカーのカタログを見たがこれぞと言うものには出会えず、 これならというものは驚くほど高価だった。キッチンにさほど複雑な機能はない。 加熱機器と洗浄機能だけだ。ならば、オリジナルで作ってみようと考え、 結果的に本当に納得のいくものを手に入れることができた。

古くなったものを新しいものに交換したり、足りないものを補ったりするプラスのデザインではなく、自分たちの価値観に合わないものを削り取って、各部位の真の意味だけを残すマイナスのデザインである。
 「変化に対応できること」とは、生活スタイルの変化や新しくなっていく設備に対応できるようにすること。  
 改装工事は、楽しい事ばかりではなかった。色々と大変だった事もあったが、この仕事をしていく上で何がどれくらい大変な作業で、 どのタイミングで何をしておかないと取り返しがつかないか、といった事を身を持って知ることができた。
 住むための器は本来、一人一人、家族の生活スタイルや価値観に合わせるべきだと思う。 予算・場所・機能を満たし、最良の空間を作る必要があり、 またそれが可能であることが分かった。 そして、何か作り変えるということは、必ず解体という工程を通過しなければならない。 産業廃棄物処理場の光景は、忘れることができない。 だからこそ少しでも息の長いものを作っていきたいと考えている。
Photography:S.Yamashita

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