Late Winter/2002
クライアントが初めて事務所を訪れたのは、2002年の冬。奥さんが1人やってきた。その後しばらくして、ご主人が1人大きな鞄を抱えて仕事の合間を縫ってやってきた。それからしばらくして、今度は、夫婦揃って事務所にやってきた。それから3年。ようやく2人の暮らしを実現出来る敷地が見つかった。待った甲斐があったとはまさにこの事。想像力を掻き立てられる土地が見つかった。
09/Sep./2006
敷地が決定してから2回目の秋。大きな雑木林だった土地は、分割された敷地の片側には、真新しい家が建ち、駐車場が出来、計画敷地が道路から見えなくなった。建物の計画について、特に要望も無く、定期的に食事をしたり酒を飲んだりしながら緩やかに進んでいた。このやり取りが想像力をさらにかき立てられる。
08/Apr./2007
ここ数日の花冷えが今日まで桜の花を散らすことなく咲き誇り、水はけの良い土地であることを実証するかのように昨夜雨が降り、5年の歳月を掛け納得いくまで考えつくした姿を縄張りで確認し、地鎮祭。いよいよ始まる。
11/Apr./2007
仮設の工事が始まった。通路部分にあるアカシアの樹にも青々した葉が茂っている。心地よい影の下を歩くのが楽しい。
19/Apr./2007
重機を敷地に降ろし、掘削を始めるとすぐにごろごろと大きな岩が出現。文化財宝蔵地区に当たるこの敷地では、徳川幕府による大坂城 再築(元和6年〜寛永6年)に伴う石切(採石)丁場。ということは、この岩は、大阪城のモノと同じか。
26/Apr./2007
基礎底を何処まで掘るか、掘れるか。岩盤が出てきたところを建物の荷重を支持する地盤面とする。地表面に見えている岩盤から地中に埋もれている岩盤を予想し仮想の基礎底を設定している。その予想と現実がほぼ一致。
02/May/2007
これだけを見ると何か栽培しているのかと思う。向きも、大きさも異なる型枠が少し大きめのプランターのようだ。ここに基礎のベースを作り、建物全体の荷重を受け持つことになる。
07/May/2007
プランターで栽培していたものは、鉄筋だった。ベースから柱筋が伸びている。鉄筋は、伸びているが、次回コンクリートを打設するのは、ベースの部分のみ。プランターの部分のみ。
11/May/2007
プランターにコンクリートを流し込んでいく。斜面を重いホースを振り回しながら順に流し込んでいく。検討に検討を重ねながら進めているのでさほど想定外な事は起きない。この先もそうだと良いのだが・・・。
16/May/2007
基本的にコンクリートは、お好み焼きのようなモノ。メリケン粉と水とキャベツの代わりにセメントと水と骨材を混ぜる。どろどろしたモノをどんな型に流し込むかで出来上がるお好み焼きも変わる。
26/May/2007
2つの高さの違うプラットフォームの型枠が組まれた。両方とも現在の土のレベルより高い為、今までとは大きく印象を変える。高さも向きも異なるこの2つのプラットフォームの上に母屋が載る。
03/Jun./2007
プラットフォームの上に断熱材を敷く。今回の建物は、建物の外周を全て断熱材でくるんでしまう。魔法瓶を倒したような建物。
09/Jun./2007
断熱材の上に配筋。全ての梁がスラブの上に出てくる逆梁。フラットな型枠を組むまでは良いのだが、その後が大変。梁の部分が全て浮き型枠となる。
13/Jun./2007
大型の台風が接近中。予定していたコンクリート打設を延期。降りしきる雨の中、コンクリートに混ざってしまわないよう型枠の上を全て掃除。
15/Jun./2007
煙突にこれほど種類が有るとは知らなかった。導入予定の薪ストーブの打ち合わせで新潟へ。ストーブの燃焼試験を行い、2種類の煙突の差も確認。
17/Jun./2007
台風一過とはならず。どんより曇った中でのコンクリート打設。逆梁の浮いた型枠を踏みつけないように注意を払いながらの打設。前面道路から打設箇所まで遠く離れているので何本もホースをつなぐ。
18/Jun./2007
7時間以上かかった打設から一夜明け、コンクリートの急激な乾燥を抑えるための散水。昨日のお祭り騒ぎから一変。静かな現場に水を撒く音が心地よい。水たまりに反射する光は、もう夏のもの。
21/Jun./2007
少しカタチになってくるとクライアントも気になるモノ。現場の進捗状況を説明し、現場がいかに多くの人が携わっているかを肌で感じてもらう。この事が重要。
31/Jun./2007
今回採用となった型枠。断熱材を型枠に加工して組み立てられていく。ベニヤ板に比べて軽くて持ちやすいが、固定の方法に一苦労。計画建物の図面を型紙にし、すべて工場でカットして現場に運び込まれている。
02/Jul./2007
断熱材の型枠と鉄筋。柔らかいモノと固いモノが同居している不思議な状態。配筋をしているときに型枠に当たると穴が開いてしまう。取り扱い注意。
08/Jul./2007
白い断熱材と30センチピッチで入った木とのとりあわせがどこかイギリスの住宅様式ティンバーフレームを感じさせるが、コレは仕上げではない。あくまでも断熱材と型枠を兼用したもの。仕上げをこの上に施す。
21/Jul./2007
フランクロイドライトの照明ではない。玄関ポーチにある特殊な型枠。型枠は、コンクリートを流し込む器。コンクリートを流し込むと横に広がろうとする。コレを押さえ込むために、幾つものフィンが付いている。もちろん型枠なので、仕上げではこのフィンは、無い。
25/Jul./2007
コンクリート打設。細長い専用通路の先にある建物のコンクリート打設。ポンプ車を2台縦列に並べ、1台目のポンプ車から2台目のポンプ車へコンクリートを圧送。2台目のポンプ車から建物へコンクリートを打設する。
01/Aug./2007
構造的に問題の無い箇所から順に型枠を外していく。シンプルな形状をした建物の中に複雑に折れ曲がる階段。階段を上がる間に身体の向きが180度回転する。
08/Aug./2007
天井がない状態なので、室内となる部分に対し光が多い。室内環境で大切なのは、明るく、広くではなく、部屋の用途においてメリハリの調整をすること。
11/Aug./2007
リビング棟の斜めの梁、通称バットレスのコンクリート打設。ほぼ45度の勾配を持つ屋根と建物全体の構造を担う重要な梁。それがほぼ45度傾いている。
21/Aug./2007
主寝室棟の型枠が全て脱型された。コンクリート所々色が違うのは、カラーコンクリートを用いた箇所があるため。一番暑いときに打設したコンクリート。
28/Aug./2007
リビング棟の型枠が全て脱型。主寝室等は、壁式工法なので面で切り取られた視界が水平方向、垂直方向にぶつかり少し不思議な感じがする。
05/Sep./2007
半外部よりも少し外部要素が少ない半々外部になる部分。粗野な感じのコンクリートで三方が囲まれているが、ここからは青空が見える。少し贅沢な物干し場。
11/Sep./2007
主寝室棟の屋根を木で組み始めている。コンクリートで作ったバットレスに斜めの土台を敷き、それに木の梁をかけ屋根を作っていく。屋根をコンクリートで作らないのは、建物の荷重を少なくするためと日射による蓄熱を避けるため。
13/Sep./2007
木の梁を掛けた上に合板を貼り、その上に断熱材を敷く。主寝室等は、屋根の勾配がさほどきつくないので大工さんも屋根の上で比較的自由に作業が出来る。
20/Sep./2007
鉄筋コンクリート造の場合、一般的には最終コンクリート打設を上棟と見なす。今回の場合、さらにその上に木で屋根をかける為、その梁がかかった時点で上棟となる。本日上棟式。
25/Sep./2007
リビング棟の天井下地が出来上がった。2階から見えるこの風景は、いずれ無くなる。奥に見える風景との間に2枚の壁が入る。断面が三角形のこの状態でこの仕上げだと意外と面白いかもしれない。
28/Sep./2007
現場に足を踏み入れたときの感覚は、何とも言えない。不思議。一気に深海に潜り込んだか、水族館に来たか。ガラスルーフが載る所にブルーシートが掛かっている。何とも不思議。
02/Oct./2007
寝室棟の天井下地が組み上がってきた。この建物は、天井懐がたっぷり取ってある。平屋だからこそ出来るデザインがある。
13/Oct./2007
何とも異様な光景だが、この光景は、今夜見納めとなる。この薄水色のポチポチは、コンクリートに埋設する床暖房の下地材。このポチポチの間をお湯が流れるパイプが仕込んである。
17/Oct./2007
クライアントと現場でのミーティング。コンクリートのスラブに開いた孔に仕込まれた照明とその照明のメンテナンス方法についての説明。
19/Oct./2007
この現場には、親子の大工さんが入っている。現場では、父と子の会話ではない。師匠と弟子の会話。
22/Oct./2007
4年間考え続けた事の結論がようやく出た。現場から山を越えたところにある古材市場でようやく結論が出るだけのモノに出会った。
27/Oct./2007
窓じゃない窓。この言葉は、クライアントと打ち合わせの中で生まれた言葉。その窓じゃない窓がようやく実現した。現場がスタートした時からずっとどうやって作るかを施工者と一緒になって検討した結晶の一つ。
06/Nov./2007
キッチンの製品検査。今回のキッチンは、両面に収納が有るアイランドキッチン。IH もガスコンロも備えている。土足のキッチンなので標準よりも天板の高さが高い。
10/Nov./2007
キッチンのワイドが2.5M。ステンレスの一枚天板が玄関を通過し予定した箇所に納まるかどうか随分検討していたが、意外とすんなりと納まった。
12/Nov./2007
建具の塗装見本。どの程度塗膜を厚くするかによって微妙に光沢が異なる。特に濃い意色を塗る場合は、どんどん塗り重ねると艶が生まれる。最後のさじ加減を現場で確認。
14/Nov./2007
漆喰が塗り込まれた天井面に開けられた孔。そこにオリジナルの照明器具が埋め込まれている。試験点灯。漆喰独特の光の舐方が同じ電球でも優しく見える。
19/Nov./2007
浴室に開けられた天窓から光のシャワーが降り注ぐ。そのシャワーの下に直径20センチのレインシャワーが取り付いている。此処で浴びるシャワーは、最高に気持ちいいと思う。
22/Nov./2007
この家には不思議な箇所に幾つも光を取り入れる仕掛けがある。この窓からは、深い森しか見えない。しかし、角度によっては、全く森は見えない。
26/Nov./2007
ひょっとしたら一番最初にこの風景をイメージしたのかもしれない。設計を進めて行く上で決まったなにかから進めていくわけではないが、ひょっとしたらこの風景が最初に浮かんだのかもしれない。
09/Dec./2007
真っ白の氷上でスピードスケートのスタートの様子ではない。ピンが立った下駄を履いて、化粧目地をシビ鏝で入れている。ガラス屋根から降り注ぐ冬の光が新しく刻まれた目地に薄影を落とす。
10/Dec./2007
内装工事がほぼ終わり、照明器具が取り付けられ、照射角度等の微調整にを行う。斜めになった天井に取り付けられた照明器具は、ほんの少し角度を変えることでずいぶんと見え方が変わる。
11/Dec./2007
外光の射す量を変えることで同じ建物内でも明るさ感が異なる。時間によって明るさ感が異る事により空間に変化が生まれる。
12/Dec./2007
紙で出来ているように見えるがこれは、金属を加工して作ったモノ。ダイニングの照明の試作品。あくまでも原寸大の試作品。現場に持ち込み設置方法等を検討。何とかなりそうだ。
13/Dec./2007
施主検査。午前中から降り始めた雪は、施主検査が終了する頃にはすっかり雪景色に変わっていた。こんな景色は流石に設計しているときは想像していなかった。
14/Dec./2007
施主検査を行ってから、ぴたりと現場が止まった。止まってしまった。外構が決まらない。全く決まらない。巾4m13m程のいわゆる専用通路のデザインが決まらない。そんな苦悩の日々が続き、悩みに悩んでようやく決まったのが、風で揺れる柵。
15/Dec./2007
外構のデザインが決まったと同時に、ダイニングに吊り下げる照明器具も出来上がった。直径1.3m程の薄い金属で出来た大きな傘の下に入ると、ゲルの中に入ったような気になる。
16/Dec./2007
外構のデザインが決まったと同時に引っ越しの日も決まった。雨が数日でも降ると、間に合わないのが外構工事。晴天を祈るばかり。まずは、既存の地面より25センチ高い通路を造る。
17/Dec./2007
外構工事を行っている合間に、施主検査でチェックした室内の項目を直していく。つい先日まで静まりかえっていた現場がバタバタと再起動し始めた。漆喰の壁と煉瓦の柵のコントラストに木漏れ日が加わる。
18/Dec./2007
工事費の事もあったのは事実だが、それよりも工事に参加したかったことも事実。どちらかというとそちらの方が比重が重い。13m程のコンクリート採石洗い出しにチャレンジする。
19/Dec./2007
柵には色々な策がある。これは、土管を積み上げただけの柵。丁寧に積むことに慣れている職人さんに無理を言って、雑に積んでもらう。左手で片目閉じて積んでくれと。
20/Dec./2007
煙突は一体誰が工事をするのか。煙突屋さんというのが存在するのかどうか分からないが、今回は大工さんに取り付けてもらう。昨年の暑いときに実物を工場に見てきた物がようやく届いた。
21/Dec./2007
風に揺れる柵が出来上がった。9ミリの鉄板が30枚程高さ2.5mで並んでいる。等間隔で並んだ鉄板が隣の家との境界を作る。整然と並んだ柵が風で揺れる。
22/Dec./2007
門扉の試作。巾の狭い金属のプレートを1枚の丁番で取り付ける。基本的に丁番は、2つで一組みとなる。それ故、1枚で取り付けられる加重は、カタログには示されていない。ならば、同じ重さの木で試作。
23/Dec./2007
気が付いたら、現場が始まってもうすぐ1年になる。ま、設計していた期間を考えると短くも感じるが、ようやく終わるという感覚よりも、終わってしまうという感覚の方が今は強い。色々な事にトライすることが出来た。そのどれもを、何も言わず承諾してくれたクライアントに感謝。
24/Dec./2007
クライアントが事務所に訪れたのが6年前。まさかこれほど長くかかるとは、どちらも思っていなかった。ようやく完成。時間をかけた分、引き渡しが少し寂しい。